第22章 云いたかったこと
あれからも、癖で思わず中也さんのした怪我や傷を移してしまうことはやはりあった。
しかし、あれ以来彼から叩かれるようなことは勿論…怒られるようなこともない。
ただ、悔しいような顔をさせてしまう。
それが嫌ではあるけれど…彼に傷が出来てしまうと、何よりもやるせない衝動に駆られてしまって。
毎回、泣きそうな顔になりながら私を抱きしめて離さなくなる。
けれど、彼に体術の稽古をつけてもらっていると分かるのだ。
特に私は、元々こういう仕事をこなしてきていた人間だから。
中也さんが、信じられないようなスピードで強くなっていっていることに。
雰囲気や面構えまで見違えてしまうほどに…異能力なんてなしに、ただ強くなっていって。
そして恐らく、私の知らないところで異能力の訓練もしているのだろう。
太宰さんに度々彼のことを聞いてみれば、また新しい作戦案が思いついただのなんだのとよく耳にするから。
「?…おや、蝶ではないか…今日は中也か誰かと一緒ではないのかえ?」
『!紅葉さん』
声をかけられて振り向いて、小走りで駆け寄ると腰を落として目線を合わせてくれる。
綺麗だなぁ、相変わらず…
『中也さん今寝てしまってて…最近やけに仕事量多い気がするんです。それも、私と過ごしてないような時間帯にいっぱい…』
「仕事量…?どうして分かる?」
『…なんとなく…最近よく森さんに用事してますし、太宰さんの方が多分…私より一緒にいますし』
「おやおや…それは心配をかけてしもうたみたいじゃの。じゃが大丈夫じゃ、安心せい…すぐに理由もわかる」
理由…?
この人は何か知ってるの?
『理由…って…?』
「ふふ、今は知らずにおってやれ…中也の口から言いたいじゃろう。蝶からしてみれば驚くようなことかもしれんが、中也はそれを楽しみにしておるからの」
『………それならいい、です…お仕事してきます』
にこ、と微笑まれれば、決して中也さんが何か無理をしているわけでも気を使っているわけでもないと分かったため、執務室に戻ろうと足を動かす。
「仕事?今日の分はついさっき鴎外殿に渡しに行っておったろう?」
『中也さん、頑張り過ぎだから…でもバレるとすごく気使わせちゃうから、こっそりお仕事進めておくの。内緒ですよ…?』
へらりと笑うと、また紅葉さんからも微笑み返される。
中也さんの楽しみって何だろう。