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第18章 縁の時間


『…手動かない、離して?』

「酔い覚ましたら離してやる」

『中也さんが言う事聞いてくれたら能力使ってあげる』

「………何だよ」

ニヘラ、とはにかむ少女のこの表情に、俺はめっぽう弱い。
それを知ってか知らずか俺に向けてくる目の前のこいつ。

『えっとね…まずね?もっといっぱいよしよしーってしてほしいの…あんな奴らに取られなくって良かっ「ちょっと待て」?なあに??』

蝶の言葉を遮って、もしやと思って蝶の肩に手を置いてみる。
一瞬ピク、と反応されたのを見てますます頭に思い浮かんだそれが確信に変わった。

確かにこいつは酒癖が悪けりゃ素直にもなる…そう、酒が入れば素直になる。
それで俺にいつも以上に迫ってきていたのだ。

迫りたかったからじゃない……今、確かにこいつはもっと撫でていてほしいのだと言っているではないか。
あんな奴らに…そう、言っているではないか。

そうかよ…いや、そうだよな。
そりゃあ大の大人の男に良いようにされかけて…そんな事がもう分かるようにもなっちまって、経験もトラウマもありゃあそうなるよな。

「………甘えんの下手くそかお前……場所だけ変えんぞ、くっ付いとけ」

『へっ……あ…!?』

ぐい、と蝶の体を抱き寄せて、ざわつく周りを無視してなんの断りもなく教室から外に出る。
すぐさま屋根の上に移動して蝶の手を楽にさせてやり、それから俺がしてやれることはただ一緒にいてやる事だけだ。

『ちゅ…うや、さん……?』

「…なんだよ、お望み通り大事にしてんだろ……不服か」

『!…ううん………ねえ…こういうの、あったらさ。……また、中也さんが助けに来てくれる…?』

「当たり前だ…が、もう離れんな俺のところから。……それはいいとしてお前よ…酒の力借りても結局甘えきれてねえんじゃやっぱりまだダメだな。演技にしてはあいつらの前で度が過ぎんぞ、さっきのは」

ビクッと肩を跳ねさせる蝶。
やっぱりか。

睨んだとおりの反応だ。

『い、つから…っ?』

「………お前が酔ってるはずなのに俺のこと“中也”って呼んだ時に違和感はあった…気づいたのは今だがな。…ったく、まだ怖かったならそう言えっつうの……じゃなけりゃ人前でこんな風に抱きしめてやれねえだろ、馬鹿」

『…うん……中也好き…中也が大好き』

「なんでそういう所は素直なんだよ…俺もだ」
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