第12章 夏の思い出

『なんでもって、だから私は今回中也さんの事を考えて…』

｢君のような頭の良すぎる大人の女性だから仕方のないことなのかもしれないが、信頼して大切だと思うんなら、ちゃんと言っておいた方がいい。言われてこなかったかい？我儘を言えって｣

散々言われた。
ここ最近で我儘言うようになってたから忘れてたけど…我儘は言うものだって。

何度も言われてきた言葉だ。

｢それにあいつの事だ、蝶ちゃんからなら我儘を言われたいだなんてことを言ったこともあるんじゃないのかい？｣

『……ある』

だろう？と微笑む太宰さん。
鋭い雰囲気が無くなって、私の頭をﾎﾟﾝﾎﾟﾝ､と撫でる。

｢確かにあいつのタイプの女性は、女性らしくて少し大人で気品のある人だ｣

『え、それ初耳なんですけど…それなら私なんて全然｢でも｣…でも？』

｢蝶ちゃんと出会ってから、可愛いと思う感情が芽生えてたまらなくなってしまったんだろうねぇ？……それに本人も言ったことがあるかもしれないけれど、今よりもう少し成長した君の姿は本当にタイプらしいし｣

『……聞いた、恥ずかしいからそれもういい』

ふふ、とｸｽｸｽ笑う太宰さんにﾌﾟｸﾘと頬を膨らませる。
何それ、あの人のタイプとか知ってるし。

｢だからね？我儘言われたらたまらなく可愛く思ってしまうものなのだよ…君はその性格とこれまで生きてきた年月故に甘えられない性格だ。肝心なところでちゃんと甘えられるように成長しなくてはならない｣

『いっつも甘えてますけど』

｢基準値が低すぎるんだよ、君の我儘なんてこれっぽっちも我儘に聞こえないからね。お願いレベルさ｣

目を丸くして太宰さんを見つめる。
お願いレベル…基準値が低すぎるだなんて初めて言われた。

……いや、これがそうか。
私の我儘なんて、可愛らしいものばっかりだって。

言い方や雰囲気が違うだけで、本当に中也さんも我儘を言ってほしいというのは当然なのだろう。

けど、我儘って何？
どこまで強請ればいいの？……どこまでなら、強請ってもいいの？

『…我儘って、なんなんですか』

｢……君が今したい事を全部言ってみなさい。まず、今晩はいっぱい中也といたい？｣

太宰さんからの問いに勿論と返すと、よし、じゃあ次だと質問が続く。

｢夏祭りには、行ってみたい？｣

上手く教育されてしまった私の身体は、勝手に小さく頷いていた。