第7章 長い夏
長い夏休み。
「…」
縁側に繋がる座敷。
テーブルを挟んで
空気は重い。
「…黙ってちゃ、わからないだろ。」
「ユウスケ、大学には行ってちょうだい…」
決断を迫られていた。
「東京…」
父さんと母さんの表情が固まった。
「…東京だと?」
「…東京にある、アニメーションの学校に行きたい。」
父さんは、眉を潜めた。
「アニメーション…?」
「実は…漫画を描いてるんだ。」
僕は、テーブルに原稿を出した。
編集者に見てもらった事。
自分に足りないもの。
それでもやりたい事。
「ほぅ…」
父さんと母さんが、
原稿を見合っている。
「…東京じゃなきゃダメなのか?こっちの大学に行きながら、漫画を描くのはダメなのか?」
「…え。」
「東京じゃなきゃ、ダメなのか?」
父さんの真剣な目。
母さんの不安な目。
「漫画は描いていい。編集の方が言うように、絵も話も、上手だと思う。私だって、若い頃、よく漫画を読んだ。今でも、たまに読むよ。」
父さんの表情が和らいだ。
「しかし、経験が足りないお前に、自ら人に関わるのが苦手なお前が、東京で一人やっていけるのか?」
優しい表情の奥に、
厳しい眼差しがあった。
僕も自信はなかった。
「漫画を描く事、認めてくれて、ありがとう。」
立ち上がった。
「東京に行くか、こっちの大学に行くか、夏休みの間、よく考える。」
「ユウスケ。」
母さんが、優しい目で僕を止めた。
「ユウスケの夢、どんな夢でも、
私達は応援するわ。…でも、まだ遠くには…行かないで。」
「…よく考えるよ。ありがとう。」
僕は部屋に戻った。
パソコンを開き
「アニメーション専科」
「○○県」
「大学」
「専門学校」
思い付くまま、言葉を並べ、
検索してみた。
…漫画、反対されると思ったよ。
でも、反対されて、それでも
東京に飛び出す勇気は、
僕にはない。