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絶対絶望壮年 ーカムクラといっしょー

第6章  お別れ。


「……で、君の名前も思い出したんだが、ちゃんと合っているかどうか不安だな。やはりこういうことは間違えたら失礼だろう」
「さぁ? 少なくとも僕は気分を害しはしませんよ」
「そうか、では遠慮なく言わせてもらおう。……君の名前は"イズルくん"だな?」
暁が確信めいた口調で言った。
「…………正解です」
カムクラは無表情で呟くように返す。
けれど、暁にはその無表情が微かに微笑んでいるように見えた。
「よかった、正解だったか。もし良ければ君の名字も教えてくれないか。娘は君の事を"イズルくん"としか書かなかったんだ」
控えめに笑いながら訊く。
「……いいでしょう。覚えのないものを当てるなんてあなたには不可能でしょうし。……僕は"カムクライズル"、そう呼ばれていました」
「「呼ばれていた」? 変な言い回しだな。本名じゃないのか?」
暁が不思議そうな顔をした。
「……訳有りというものですよ。取り合えず、この名前は確かに僕に与えられた名前です」
顔を背けながらカムクラが言った。
「そうか。まぁ、これで君の名前も肩書きも分かったことだし後々探すのも不可能ではなくなった訳だ。私はいつか必ず君に恩を返しにいくよ」
暁が背後を振り返り、暗く続く線路を見る。
「それに……君の言った通り、もしかしたら本当に地下鉄が崩れるかもしれない。早くこの場から立ち去った方がお互いの為だろう」
そう言うと、暁は右手をカムクラに差し出した。
「…………」
「ほら、握手だ」
ただ暁の右手を見つめるだけのカムクラに、暁が催促する。
「早く出た方がいいと言った瞬間に何をしようとしているんですか……」
「時間の無駄ですよ」とカムクラは呆れて溜め息をひとつ吐き、仕方なく同じように右手を差し出した。
「よし」
暁がそれをガシッと掴み、上下に小さく振る。
「………………」
握りあった手を静かにカムクラは見つめた。
「(コレに込められた気持ちは、一体何なんでしょうね……誉稀が僕に教えようとしていた類いのモノでしょうか)」
カムクラは、自分には無く他の誰もが持っているはずの感情を考える。
主観的な答えは見出だせず、客観的に無理やり見出だすとツマラナイ答えしか出てこない……。
「(あぁ、ツマラナイ)」
カムクラは口の中でそう呟いた。
暁が手を放す。
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