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絶対絶望壮年 ーカムクラといっしょー

第6章  お別れ。


環状線を外れた線路が塔和シティの外へと伸びている。
遠くから吹き込んでくる重たい風が暁とカムクラの横をすり抜けた。
「……ここが外への道か?」
「えぇ、そうですよ」
「やっとか……」
暁は安心したように溜め息を吐く。
そして少し寂しげな表情をした。
「……これで君ともお別れか。たった数時間の間だったが、たくさんの事が起こりすぎてか何日間も時間を共にしていた気分だ」
苦笑しながらも暁は申し訳なさそうに目を伏せた。
「君には何度も助けられた。君がいなかったら私は脱出など出来なかっただろうし、もうとっくに死んでいたかもしれない。世話になったな、今まで本当にありがとう」
「………………」
カムクラは深々とお辞儀をする暁を無言で見つめた。
「……青年、やはり私は君に御礼がしたい。どれだけ返しても返しきれない恩だ。いつか君に礼を尽くせるよう、教えてくれないか? 君が一体、何処の誰なのかを」
頭を上げた暁が、カムクラの赤い眼を真剣な表情で見た。
「……そうですか。僕は見返りなどほしくありません。ですが、僕の名前のヒントをあげましょう」
「ヒント……?」
「はい、ヒントです。それは僕が吐いた嘘の中にあります」
カムクラが人差し指で暁の懐を差す。
「嘘だと……? ……あぁ、そう言えば」
懐を指差された暁はハッとしたように懐から黒いファイルを取り出した。
「そうです。そのファイルの話題の時に僕はとある嘘を吐きました」
「ファイルの時か……確か未来機関と娘の話をしたな」
会話を細かく思い出そうと暁は目を瞑り考え込む。
「君が吐いた嘘はどちらの事なんだ……? 未来機関に所属していないと言ったことか? それとも……」
「僕の勘では、きっとあなたは僕の名を何処かで目にした筈ですよ」
カムクラは暁の手からファイルを取り、開く。
「何処かで……? なんだ、君はもしかして未来機関の幹部的な人物だったりしてメディアに取り上げられたとかいうことか?」
「違いますよ……もう1つの可能性の方も考えてみてはいかがですか」
「もう1つとは、私の娘のことか」
暁がカムクラに訊いた。
「となると……君が私の娘との関係を否定した事か?」
カムクラは応えずにファイルの画像を見つめる。
暁の娘である、希灯誉稀。
その少女は2人の共通点であった。
「………………」
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