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廻る世界の片隅で【Dグレ短編集】

第16章 ◆さよならの前に(神田/ルパン三世)



✣✣✣✣✣✣




















ガタン、ゴトン



揺れる汽車の中。
個人車両内で向き合うように座る、男女が一組。
フィレンツでのイノセンス探索任務が不発に終わった、神田と雪の姿だった。



「………」

「………」



腕と足を組んだ見慣れた姿勢で、目を瞑り口を一文字に結んでいる神田。
その姿をちらりと見ては、聞こえないように溜息を零す雪。
神田が無言を貫くことなど珍しくもないが、どことなく重く居心地の悪い空気。
それには雪にも心当たりがあった。



(やり過ぎたかなぁ…)



カーラの守った宝を死守する為とは言え、ルパンを騙す為に神田の想いを利用した。
ここまで上手くいくとは思わなかったが、しかし宝死守成功の為に支払った代償は、決して小さくはなかったようだ。



(うう…空気が重い。方舟ゲートまでこんな空気は嫌だな…)



恋仲前の神田となら当然の如く感じていた空気だが、その時は雪も神田に一切の感情を持っていなかった。
だからこそ甘んじて受けていた空気が、特別な感情を抱いた今では些かしんどい。

人気のない林の奥地にあった、ガウティーリ城からの帰り道。
アレンの設置した方舟ゲートまでは、まだ遠い。



「…あの、さ」



口を開いては、何かを言い掛けて閉じる。
その繰り返しを地味に続け、15分後にようやく雪は第一声を搾り出した。



「イノセンス、結局見つからなかったね」

「………」

「でもその分、報告書は簡単に済むからいいけど」

「………」

「ねっ」

「………」



はは、と和ますように笑いかけても、返事の一つもありはしない。
任務にストイックな神田のこと、イノセンス未発見であることに良い感情はないだろう。
駄目出しの一つもしてきそうなものなのに、小言の一つもない。

それが更に居心地を悪くするのだ。



(だから空気が重い…!)



耐えきれなくなった雪は、だらりと思わず項垂れた。

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