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廻る世界の片隅で【Dグレ短編集】

第16章 ◆さよならの前に(神田/ルパン三世)



「大切な、ひとだったんだね」

「ただの腐れ縁さ。って言いたいが、そうだな…親代わりみたいなもんだったかもなァ」



返す彼の表情は、カーラを看取った時のような優しい笑みではない。
清々したような、名残惜しいような、嬉しいような、哀しいような、一言では説明できないものだ。

それで充分だった。
どれだけの思いをルパンがその人に抱いているのかは、説明できない程に深いのだろう。



「ルパンは、どうするの?その人を見送った、この先の人生」

「なんにも変わらねぇさ。相も変わらず泥棒家業よ」



肩を竦めてニヒリと笑う。
其処にはいつものルパンがいた。



「手始めにガウティーリ家の宝でも頂いていくとするかねぇ」

「待って。あの宝物は守るって、カーラちゃんと約束したでしょ」

「言っただろ、問題は残された方だ。あんな狭い部屋に放置なんざ、それこそ宝の持ち腐れだろ。オレは義賊じゃないんでね」

「でも…っ」



ルパンが本気を出せば、その盗みを阻止することは雪と神田であっても難しいだろう。
それがわかっていたから、雪は焦りを覚えた。
安心して眠ったカーラの為にも、あの部屋の宝はそのままにしておきたい。



「あの宝物があれば、ルパンみたいな人達はまた来るだろうし…っアルドルフォさんもホテル経営に助かるかもっ」

「オレみたいな泥棒やマーマみたいな強盗だぜ?ホテルの利益になるか?」

「それは…っ」

「それに、そんなもんなくたってあのホテルは大丈夫だろうよ。あの景色だけで観る価値有りだ」



丘の上に立つ墓地から、ガウティーリ家の居城であったホテルが一望できる。
ルパン達が赴いた時には周りが崖だらけで重々しい雰囲気だったホテルは、今や太陽の光で煌く美しい湖に囲まれた、由緒正しき立派な城へと変貌していた。
その外観を一目見ようと客も足を運ぶだろう。

否定できないからこそ焦燥感に拍車が掛かる。
ぐっと拳を握ると、雪はホテルを見下ろすルパンへと歩み寄った。



「ルパン」

「なんだい?」

「私って、良い女?」



予想もなかった問い掛けに、ぱちりとルパンの目が向けられる。

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