第16章 ◆さよならの前に(神田/ルパン三世)
「にしてもよォ。雪の彼氏、前よりおっかなくなってねぇか?」
「そう?何も変わってないと思うけど」
「変わった変わった。前は問答無用で斬り殺しに来てたけどよ、今はオレと雪の仲をわかってても斬り殺しに来るからな。殺人欲求不満なの?」
「殺人欲求不満て。せめて暴力欲求不満と言って」
「そこは否定しないのね…」
雷雨をBGMに、冷たく暗い石造りの通路を歩く。
一人で迷い込んでいた時とは一転して、こうも恐怖が薄れたのは隣を歩くひょうきんな彼のお陰だろう。
「そういや神田から聞いたぜ。雪ちゃん、美形嫌いなんだって?」
「ああ…まぁ…目の保養にはなるけど、なんかこう反射的に構えてしまうと言うか…特に女顔の美形さんを見るとこう…頭をガードしたくなると言うか…」
「…それってまさか、神田の所為じゃねぇの?」
「そうだね、うん。全くもってその通り」
うんうんと強く頷く雪に、ルパンの表情が面白味あるものへと変わる。
「じゃあなんでそんな神田を選んだわけ?」
「選ぶ?」
「そ。男なんてそこら中にごまんといるだろ?」
「…うーん…」
腕組みをして考えるように首を捻る。
すぐに解答できない理由があるのか、ルパンは興味津々に雪を覗き込んだ。
「まず、選んでないからなぁ…」
「へ?」
しかし返ってきたのは、予想しなかった答え。
「そういう目で他人を見たのは、ユウが初めてだったし。元々そういう目で誰を見る気もなかったし」
「…じゃあなんで恋人にしたの?」
「さぁ」
「さぁって」
止めていた足を再び進める。
自然と見送る形となるルパンに、雪は僅かに眉尻を下げて笑った。
「強いて言うなら、見つけられたから」
「何を?」
「私の中にある、人間的なもの」