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廻る世界の片隅で【Dグレ短編集】

第16章 ◆さよならの前に(神田/ルパン三世)



「部屋を間違えて…は、ないし…」

「そっちの部屋にでも移動したのか」



ギィ…



廊下に戻ろうとしていた二人の足が、ぴたりと止まる。
耳にしたのは、軋むような微かな扉の開閉音。
それは部屋の奥から聞こえた。

心霊の類は心底苦手なのに、何故こういう時に嫌な予感というものは働くのか。
恐る恐る振り返った雪と次元の目が捉えたのは、暗い部屋の奥に設置されたクローゼット。
観音開きのそれは中から押し上げられたように、僅かな隙間を作り上げていた。

何故開いたのか。
単なる偶然か、その真意を確かめる前に。



ギィイイ



更に中から押し開けられる扉に、真っ暗なクローゼットの中で何かが動いた。
ような気がした。



ピカッ!と強い雷の光が窓を叩いた。
一瞬の眩い光に、クローゼットの奥が照らされる。






見えたのは、扉の隙間から見開いた目で此方を覗く少女。






「ひ…ッ!」

「ッッ!」



一瞬だった。
すぐに消える雷に、クローゼットの中は再び真っ暗な闇と化す。
それでも雪と次元の目は同じものを捉えていた。

反射的に後退る二人の背が、廊下の壁にへばり付く。



「じっじ、じじ次元…ッい、今、そこにッ」

「言うな、祟られるぞっ」

「で、でも…っ見た、よね?見えたよねッ?」

「だから言うんじゃねぇッ」

「んぐっ」



腕にしがみ付く雪の口を、慌てた次元が手で塞ぐ。



ガチャン、



しかし動揺する二人に更に追い打ちを立てるかのように、再び奇妙な音が響いた。
釘付けになっていた部屋の奥のクローゼットからではない。

それは、すぐ真横から。

びくりと体を硬直させたまま、視線だけを横へとずらす。



ガチャン、



雷の所為なのか。
いつの間にか廊下の薄暗い電灯は全て消えていた。
それでもその金属音がなんなのか、雪達は把握することができた。

ゴロゴロと唸る雷雲に、窓の外から差し込む強い雷の光。
それが一瞬見せたのだ。

廊下に飾られていたはずの鉄の鎧人形が、不規則な動きで此方へ足を進めようとしているのを。



「〜ッ!?」

「で、出やがったァ〜!!」



口を押さえられ悲鳴も上げられない雪を担ぐと、次元は一目散にその場から逃げ出した。









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