第16章 ◆さよならの前に(神田/ルパン三世)
「次元もどうにかしてよ、相方でしょ」
「そいつは無理な頼みだ。ルパンは他人の意見なんかに左右される奴じゃないんでな。女絡みとなると特に」
「そうそう。それに此処はイタリアだぜ?雪」
「? それが?」
「〝イタリアが愛の国であるならば、全ての愛はオレの集中にある〟」
「………何それ(キザ…クサい…)」
「雪ちゃん雪ちゃん。心の声ダダ漏れ」
さらりと雪の手を握り愛の言葉を向けるように囁くルパンに、しかし雪の心は1mmも動いていない。
既に心を向けている相手がいるからだろうが、動揺の一つもときめきの一欠片も見せない雪に、たはっとルパンは苦笑した。
「だから馴れ馴れしく呼ぶんじゃねぇつってんだろうが」
しかし眼孔をかっ開いているこの男は違った。
がしりとルパンの手首を掴むと、渾身の力で握り潰そうとしてくる。
「あたたたた!痛い痛い痛い!!手首折れちまう!!!」
「寧ろ折れろ」
「だからなんでそうやってすぐ…!っ次元!」
「たぁく、面倒臭ぇなァ…そんなことしてる暇あんのかい?兄ちゃん。あんたらも目的があって此処に来たんだろ」
雪のヘルプに、溜息混じりだが真意を突っ込む次元の問い。
そこでようやくぴたりと神田の動きが止まった。
「その形(ナリ)からして仕事だろ?またイノセンスとか言う類のものを探しに来たのか?」
「あーいちち…そうそう。怪奇現象ある所にイノセンスありってやつね」
「よく憶えてたね、それ…」
「面白そうな話だったからなァ。物騒だけど」
解放された手首を振りながら呟くルパンを、感心気味に雪は見やった。
あの時も彼は面白そうだが物騒だと言って手を退いたのだ。
あれ以来一度も顔を合わせることはなかったが、ルパンの記憶にはしかと刻まれていたらしい。
あのパリの場で一からきちんと雪が所属する黒の教団のことを説明したのは、ルパンと五ヱ門と峰不二子の三人。
その場にいなかった次元も彼ら伝いに聞いたのだろう、二人の目は興味深く雪達へと向いていた。