第10章 ※◆with はち様(神田)
「まさか見送りに来たとか?」
「まぁ。そんなところ」
「へー、めっずらしー。オレの心配してくれたんさ?」
「一番の心配はファインダーのトマさんだよ。二人共しっかり守ってよね」
今回のAKUMA討伐任務ではトマが補助役に当てられ、神田とラビでAKUMAの破壊を行う。
生身の人間という意味であればラビも気を付けなければならないが、一番危険性があるのはAKUMAと戦う術のないファインダーのトマだ。
同じファインダー仲間だから心配するのも当たり前のことなのだろう。
なんだと肩を落とすラビの横で、神田も拍子抜けしながら溜息混じりに口を開いた。
「足手纏いにならなけりゃな」
「「………」」
「……んだよ」
何気なく呟いた言葉に変な所などなかったはず。
しかしじぃっと物珍しそうに雪とラビが見てくるものだから、堪らず神田は眉を潜めた。
可笑しなことなど言った覚えはない。
「ううん、なんでもない」
「右に同じくー」
「………」
眉を潜めて不快感を表す神田に、笑顔で首を横に振る二人の息はぴったり。
こういう時、妙に呼吸が合う二人の仲に神田は更に眉間の皺を刻んだ。
なんとなく気に入らない。
しかしそんな神田の心中など露知らず、雪は顔を綻ばせていた。
ファインダーは代わりの利くハズレ者だと吐き捨てていた神田が、見放すことなく手を差し伸べるようになった。
その些細な変化に気付いているのは、この場では雪とラビだけらしい。
それでいいと思う。
意図的なものでなくていい。
自然と彼が変わりつつあることが嬉しくて、雪はただ顔を綻ばせた。
「チッ話はそれだけか。ならもう行くぞ」
「あっ、待って!」
しかし神田は二人の空気に居心地悪く感じていたらしく、六幻の布袋を肩に掛けて踵を返そうとする。
慌てて止めに入った雪は、着ていたパーカーのポケットからある物を引っ張り出した。
「はい、これ。持ってって」
はい、と目の前に差し出された物を神田の切れ目が捉える。
それはなんの変哲もない、どこにでもあるような革の手袋だった。