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廻る世界の片隅で【Dグレ短編集】

第10章 ※◆with はち様(神田)





「おい。よくこんなところで眠れるな。あれか、ファインダーだからか?」

え?
眠っていたとは思わなかった。
全身暖かくて、まるでベッドの中にいるようだった。

「おい」
「あ、神田?」
「だから、起きろ、帰るぞ」
「帰るって、イノセンスは?」
「回収した。お前がこんなところで眠りこけている間にな」

ほら。と渡された荷物。
その際に触れた神田の指が冷え切っている事に気が付いたのは、自分がほこほこに暖まっていたから。
そう言えば、さっきまで膝の上にきつねが、と膝の上に視線を向けるが、そこに黒い姿はない。

「なにしてんだ」
「あ、うん」

毛の一本でも落ちていれば、現実にあった事だと思えるのだろうが、生憎雪の膝に乗っていたのは、自分の仕事道具。
まさか、幻想でも見ていたのでは?と疑るが、首に、毛皮特有の肌触りがはっきりと残っている。
先を行く神田を追うべく、荷物を背負い、ベンチを立ちあがった。


『暖まったのなら、次に渡せばよい』


夢?


「あの、神田」
「あ?」
「手、繋ぎましょう」
「は?」
「暖まりますから」
「……は?」
「いいから。言いつけなんです」
「誰の」
「えっと、神様?」
「…………ん」

差し伸べられた手、そっと触れた手は冷たかった。
あの黒いきつねが自分の膝に乗った時も、こんな感覚だったのだろうか。

「暖まったら、次は誰かに渡してください」
「意味わかんねぇよ」



後日。
気になって文献を漁っていると、東の国ではきつねやたぬきが人をだまして遊ぶと知った。

「……遊ばれた」

ふわりと首を撫でる毛皮の感覚に、ぞわりと鳥肌が立った。




(狐狸妖怪、関わるべからず)
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