第2章 4月
ガチャリ、とドアを開ける。
私の隣の部屋。少しだけ広い部屋。
その部屋のベッドで枕に顔をうずめて眠る男。
私のいとこで、私がこの家に来てからはお兄ちゃんになった。
うつ伏せで眠る大きな背中をゆさゆさ揺らす。
「…ううっ」
ゆさ ゆさ ゆさ ゆさ。
「…鈴、起きた…起きたから」
そう言っても、鉄朗は布団に身を委ねたまま。
ゆっさ ゆっさ ゆっさ ゆっさ。
これを起きるまで続ける。
インターハイまで時間がないとボヤいてたのは自分なのに。
「…鉄朗、朝練…いいの?」
カバっ、と布団から飛び起きる。
「…っ!そうだ朝練!」
子供のときから癖っ毛の黒髪は、枕に潰されて今日もまた変な寝癖になってる。
「鉄朗、…寝癖すごい」
「うるせーっ!着替えるから出てけよ」
私は促されてドアに向かう。部屋から出る直前、呼び止められた。
「鈴、お前も朝練くるよな?」
大きく二つ頷いた。
鉄朗が嬉しそうに目を細め「待ってろ、すぐ行く」と支度を始めた。