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跡部様のクラスに魔王様(Not比喩)が転校してきました。

第2章 少年少女、机を寄せて書を覗く。


 そしてその衝撃も収まらぬうちに、跡部様はさらにクラス中を驚かせてしまわれたのです。
「仕方ねぇな、ほら、机寄せろ」
「む? 一体何を致すのだ」
「教科書見せてやるっつってんだよ」
 嗚呼――何人かの女子生徒などは、いえ、男子生徒もでしょうか。失神してしまいそうです。
 だって今まで、あの跡部様に教科書を見せて頂くという光栄に預かった生徒がいたでしょうか? まさか!
 ええ、跡部様は気のいいお方ですから、頼めば快く見せて頂けるでしょう。ですが、生徒の方がどうしても気後れし、遠慮してしまうのです。いくら帝王(キング)が良いと仰っても、遠慮してしまうのがやはり民というものなのです。
 しかし、魔王はやはり王に他ならない、それを魔王ディオグラディア・ベルジャナール・魔王様は証明してしまったのです。もはやここはただの教室ではなく、王と王がまみえる場所――外交の場、或いはもはや歴史の出来上がる瞬間とすら言っても過言ではないのかもしれません。
「成程、汝の書物を共に使えということか?」
「ああ。机付けなきゃ見えねぇだろ?」
 ……まぁ、制服姿の少年少女が学習机をくっつけて1冊の教科書を覗き込んでいるだけなのですから、やはり過言だったかもしれませんが。
 しかし。
 しかしでございます。
 もう卒業も間もない時期、跡部様は氷帝学園高等部への進学をお決めになったようではございますし、ほぼエスカレーター式に学年が上がるだけのことではございますが。
 クラス編成が変わるということは、跡部様と同じクラスとなった幸運ももうじき終わってしまうのです。そう、今日やって来たばかりの魔王とやらのように、跡部様に教科書を見せてもらうなんて経験に触れる事すらできないうちに――!

「ふむ。感謝するぞ、跡部景吾」
「いいってことよ、ディオグラディア」
 そう名を呼ばれ、魔王は一瞬きょとんとした後、ふっと笑みを零しました。
「は、余をそのように名で呼ぶ男は初めてぞ」
「クラスメイトじゃねぇか」
 至極当然のように仰った跡部様に、魔王はまるで年相応の少女のように、無邪気に笑うのでございました。

 ――あの女子テニス部レギュラーの少女が、誰よりも鋭き視線を向けている事にも、気付かずに。
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