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跡部様のクラスに魔王様(Not比喩)が転校してきました。

第2章 少年少女、机を寄せて書を覗く。


 跡部様が所属しており、魔王が編入してきた3年A組は、第二外国語でドイツ語を選択している生徒達のクラスでもございます。
「テメェ、ドイツ語少しはできんのか?」
 榊先生が出て行ってドイツ語の先生が来るまでの間に、既に跡部様は他のクラスメイトに対するのと同じように、魔王へと話しかけていらっしゃいました。クラスメイト達は、正直気が気ではないようなのですが――、
「いや。日本語は困らない程度には習得したのだが、あるふぁべっとというものはどうにも慣れぬ」
 当の魔王はといえば、案外に普通に会話をしていらっしゃるのでございます。二人称がテメェだろうと気にしないのも、魔王の貫録と言えましょうか。
「アルファベットなんて26個だろ? 他のヨーロッパ系言語でも大した数じゃねぇ」
「だから慣れぬのだよ。無論、文字の形などに大層差はあるのだが、文法構造上我が魔界の言葉は日本語に近い」
「へぇ、そういうもんかよ。じゃあ中国語はどうよ?」
「国土が広すぎるゆえ、地方語が多かろう? 面倒でたまらぬわ」
「成程」
「それに、広いと誠、面倒……む、否。今の言葉は聞かぬこととせよ」
「あーはいはい。んで、教科書あんのか?」
 聞くなと言われればさらりと話題を変えるのも、跡部様らしい心遣いと言えましょう。いえ、細かいことを気にしていらっしゃらないだけかもしれませんが、それも跡部様らしさではありませんか。
「教科書……? ああ、あの用意するように言われた書物のことだな」
「そうそれだ。で、持って来たのか?」
「ふ、笑止」
 そう魔王が笑み吊り上げた唇は、蠱惑的にすら見えました。
 魔王と跡部様が、それを意識したかは別ですが。

「あのような重いもの、全てなど持って来られぬわ。それゆえ全部置いてきた」
 そしてその蠱惑的な唇は、あっさり教科書持ってこなかった宣言を口にしたのでございました。
「おい」
 呆れたようなお声に、はっとクラス中が息を呑みます。
 ――無理もございません。何せあの跡部様が――!
「跡部様が……」
「あの、跡部様が……」
「初対面の相手にツッコミを入れた……!?」
 それは、確かに事件でございました。
 あの跡部様が、魔王といえど初対面の相手にツッコまれることはあってもツッコむとは――前代未聞、だったのですから。
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