跡部様のクラスに魔王様(Not比喩)が転校してきました。
第4章 心までもが洗われるかのような
氷を思わせる青と、何にも染められていない純白のアシンメトリー、そして頂点に立つレギュラーを表す7本の漆黒のライン――氷帝学園中等部男子テニス部のユニフォームは、レギュラーから平部員、そしてマネージャーに至るまで、全員揃いの装束でございます。
熾烈なるレギュラー争いがありながら、テニス部員全員が高らかなる氷帝コールに声をそろえることが出来るのは、この同じユニフォームを纏う者としての連帯感によるものなのでございましょうか。
そして今日よりは魔王ディオグラディア・ベルジャナール・ゴーディスヴェインも、その一員となるのでございます。真新しきユニフォームに身を包んだ彼女は、着替えの間傍に立て掛けていた剣を背負い直しながらぽつりと呟きました。
「……脚を出すのは慣れぬ」
ああ、そう。女子マネージャーのユニフォームは、ポロシャツとジャージは同じなのですが、下がスコートなのでございます。そういえば魔王は、制服のスカートは膝より少し下の丈、長めにして穿いておりましたが、スコートともなればそうは参りません。
けれど――魔王の心細げな表情は、それだけではないように思えました。
あの昼休みの事件の後――当然のように魔王は、男子テニス部のマネージャーとなることを拒否しようとしたのでございます。
なぜかはわかりませぬが、魔王はテニスという言葉に対して、凄まじい恐怖を示しておりましたから。
けれど、跡部様も譲りはしませんでした。あのテニスを心から愛し、自らの安定した豊かなる将来よりもテニスを選び取った方は、そのテニスを恐れ忌避されるということが、辛くて仕方なかったのかもしれません。
「ディオグラディア、実際に俺様のテニスを見てみろ。200人の部員が、ボールを追って必死になるとこ見てみろよ。それでもテニスが嫌いってんなら、いつだってやめてくれて構わねぇ」
そう、拳を握り魔王の目を見つめて言い募る跡部様に、魔王は根負けしたようにぽつり、と呟いたのです。
――剣に命を奪われる者は後を絶たねども、刃の美しさを愛し、剣技を磨くに命を懸ける者もまた多い。……それと、同じよな。
それが何を意味しているのか、誰にもわかりはしなかったのですが。
とにかく、その言葉を切っ掛けに、魔王はようやく首を縦に振ったのです。