第14章 門出の日@黛千尋
ピュウピュウ………と、風が鳴る。扉の隙間から漏れるその音と冷たさに身震いした黛は、暫く屋上に長居するのは止めようと思った。
寒いのは好きでないし、何より風邪を引きたくない。
だが、2月も残りわずかとなった今、3年はもう自由登校だ。わざわざ学校に、それも寒い屋上に行かなくても良いのだ。
自由登校で、寒い思いをして学校に来なくても良い。……それでも、黛は毎日屋上へ通った。学校——特に屋上へ用があったから。
厳密には“用”とは言わないかもしれない。実際に黛はそう認識していないし、それは“向こう”も同じだろう。
しかし、ではなんと呼べばいいのかと訊かれれば、やはりそう言うしかないと思っていた。
それ程に、その“用”は日常に馴染み、黛にとって日課のようなものになっていたのだ。
この日も、黛はライトノベルを片手に屋上へと足を踏み入れた。
ギイ…と、硬い扉の音。それを開けると、既に到着した“彼女”が入り口の見える位置に座り込んで、黛を待っていた。
黛とはまた違うライトノベルを読みながら。
「…よう」
「あっ、遅いですよ〜まゆゆ先輩っ」
その先客——桐谷美心は本から顔を上げ、膨れっ面を見せた。