第5章 嘘つきたちの再会
「主ー。ただいま戻りました。」
数日ぶりのウィスタル城のクラリネス王国第二王子の部屋に、木を伝ってバルコニーから入る。定位置の席に座って書類仕事をこなしている主の姿があった。
ザーザーと音をたてて水の粒が大地を濡らしていたおかげで、俺はずぶ濡れだった。
「オビ、お前、帰ってくるのが遅いぞ。」
ロイヤルブルーをぎらつかせた我が主、クラリネス王国の第二王子様が迎えてくれた。
「そんなに俺に会いたかったんですか!?」
そうはぐらかせば、
「そういう意味じゃない!」
と、こんな調子で素直にこちらのペースにのってくれる。
下手な返しをすれば全うなお説教がはじまる。
これもいつも通り。
「遅いって言っても、今日は調査期間の5日目なんで、間に合ってるじゃないですか。」
「調査期間は5日といったが、その強盗団をひっつかまえろとは一言も言ってないし、奴等をお前が捕まえてきたと衛兵から伝えられてからも、お前は一向にかえって来やしない。まったく、何を道草食ってたんだ。」
怒っているのか、ただ心配してくれているのか。
その主のまっすぐに誠実な感じを気に入ってしまって、今俺はここにいる。
とはいえ、あまり糾弾されても困るのでそろそろ逃げるとしよう。
「まぁまぁ、いいじゃないですかー。悪いやつらはしょっぴけたわけですし。」
すると珍しく加勢があった。
「ゼン、今回のはオビのおかげで強盗を捕らえられたのは間違いないだろ。」
「そうだな。あの地域は兵士もあまり赴くことがなく、悪事を働いてきた奴らを捕まえられずにいたと聞いている。お手柄だな、オビ。」
ミツヒデの旦那と木々嬢の愛のフォローに感謝。これで、主からのお説教は終息する様子だ。
「はぁ。怪我なく帰ってきたし、良しとするか。それより、早くその濡れた格好をどうにかしてこい」
後でちゃんと報告書を上げてくれよ。と、一瞥で念を押された。仕事なのでもちろん反古にするつもりはない。
「承知しました、主様」
とはいえ、そう手放しで褒められると心地悪い。
トーマという得体のしれない少女からは、自分が関わったことは伏せてほしいと頼まれていたが、奴らを身を張って伸したのは彼女だ。
(どんな風に報告するかな…。)
思案しかけたとき、主の部屋に、コンコンコンと3回、綺麗なドアのノック音が響いた。
