第3章 強盗とウェイター
日中に店を訪れた悪そうな二人組の男は、十中八九、噂の強盗集団の一味だろう。これまでに聞き込みでえられた情報からの特徴を兼ね備えていた。
そして、彼らは、先ほどの一件で、ウエイターの男(の姿をした私)に怪我をさせた。と思っているに違いない。
思いっきり料理をぶちまけて派手に転んでやろうと思っていたが、謀らずも猫のような面立ちのオリーブ色の瞳のお兄さんに助けられてしまった。
あまり人相が良いとは言えなかったが、彼らの仲間、という感じでもなかった。ちょっと損するタイプの実はいい人なのかもしれない。身のこなしが軽く、腕の立ちそうな人だった。
よろけて抱えられたときに、
(あぁ、普通の男の人の手ってこんな感じなんだな。)
と関係ないことを思った。
いままで一緒に過ごした男の人といえば、イザナとゼンで、彼らはメイドの女の子たちが羨むほどの綺麗な手をしていたから、猫のお兄さんの少し無骨でけれども嫌な感じのしない大きな手は、なんだか新鮮だった。
一緒に過ごしてきた男のひとか…とぼんやり思って、あ。と思い付く。
(そういえば、ミツヒデもいたっけ。)
ひとまず、悪そうな彼らに“ウエイターの男は足を怪我して動けない”と印象づけられたらそれで構わなかった。
今日か明日の夜に、何か動きがあるかもしれない。
これまで強盗に入られた店は、必ず当日から数日前の日中に、柄の悪い男たちが訪れて、トラブルを起こしていた。
他の客にいちゃもんをつけて暴れたり、店員や店主に怪我をさせたり、料理に文句をつけて堂々と無銭飲食をしたりと、それは横暴な振る舞いだった。
そして、店員が1名となった夕暮れ時から閉店前の時間帯に複数名で、強盗に押し入られていた。
もしかすると、今夜彼らが襲いにくるかもしれない。
聞き込みだけのつもりだったが、いっそこのまま奴等を捕らえるのもいいだろう。
夕食の時間の客足が一通り落ち着いた頃、閉店時間まではまだ余裕があったけれども、女将さんを先に家に帰して、最後の客が帰ってすぐに店を閉めることにした。