第1章 彼の部屋では。
「おい・・・。」
「どうかした?」
「いい加減やめたらどうだ。」
「何を?」
「人の部屋で煙草を吸うこと、だ。」
セシリアが吐き出す煙で部屋は灰色。
音楽を、歌を得意としているのが嘘のように、彼女は愛煙する。俺の部屋で寝起きするようになってから、この部屋はいつの間にか喫煙席みたいなものへ変わってしまった。
「ここは俺の部屋だ。」
「私の部屋でもあるって。」
「なんならシャチにでも喫煙所を作らせるか?」
「そんなの要らないから、この部屋に高性能な換気扇を付けてもらおうよ。」
「身体に良くない。」
「ダメになったらローに治してもらうからいい。」
「少しは周りを考えろ、マイペースも程々にだ。」
「自由でこそ海賊じゃない。」
「俺は煙は嫌いだ。」
「ウソつき。」
堂々巡りな会話のラリーがふと止まる。
静かになった部屋の時間も一瞬止まる。
─── 呼吸も止まる ───
重なったのは苦い味をした柔らかい唇。
回された腕が絡む首元。
挑発的に見上げる目線。
顎を落としたセシリアの頭に手をやり、少し短い栗色の髪を優しく梳けば、さっきまで燻らしていた煙草の匂い。
古い映画のワンシーンのような、官能性を秘めたセシリアの愛情に少しだけ眩暈がする。純真無垢な顔で笑う姿とは、姐御肌でサッパリと笑う姿とは、まるで違う俺の前でだけ見せるこの姿。これだから女ってのは恐ろしい。
─── 好きだ ───
どちらともなく出た言葉。
この後に待つ行為に身体は熱を上げていった。
出口のない迷走する感情。
互いに刻む身体と心臓の音。
果てても終わりはない。
「で、さっきの話をもう忘れたのか?」
終わったソレのまま、シーツをたぐり寄せ後ろから身にまといながら手に持ち、また煙を吐き出す姿。
「だから、結構好きでしょう?」
「・・・狡いヤツだ。」
─── 支配されたい ───
「嫌なら、外行こっかなぁー?」
「・・・ここにいろ。」
─── 支配したい ───
「大好き。」
「知っている。」
─── 煙と共に吐き出した永遠に巡る愛 ───