第3章 悲しい過去
「…おまたせしましたー!」
私はリビングの隅の方にあるピアノの椅子に座り、曲を弾く準備をする。
「…じゃあ、弾きますね」
彼は何も言わずに目を瞑った。
それを確認した私は曲を奏で始める。
(…やばい、緊張する……)
私は間違えないように、丁寧にピアノを弾いた。
~♪
私の奏でるピアノの音だけがこの空間に響く。
静かで、とても落ち着いた時間だった。
「……ふぅ」
曲の終わりと共に私は少し大きく息を吐いた。
「……どうでしたか?」
私は彼を見て、問いかける。
彼は目を閉じたまま、足を組み直した。
トキヤ「……そうですね……。曲全体はしっかりバランスがとれていると思います。
曲の構成ですが、サビの部分をテンポを落とし、曲頭に持ってくるといい感じになると思いますよ」
そして彼は目をゆっくりと開け、
トキヤ「……私は好きです。この曲」
柔らかく微笑み、そう言ってくれたのだった。
「…………!」
その瞬間、私の頭の中にある人物が思い浮かんだ。
(……いや、違う。
この人は、あの人とは……)
「あ、ありがとう、ございます……」
私はぺこっと小さく頭を下げた。
(一ノ瀬さんの笑顔、とっても素敵だな……。
…とても、とてもかっこいい…………)
あの人の表情と一瞬重なって見えたのは、
……私の気のせいなの…………?