第2章 君の優しさ
「あ、あの?一ノ瀬さん?」
トキヤ「…………。」
神宮寺がいなくなっても一ノ瀬さんは手を離さなかった。
というか、一言も話さない。
(……そろそろ離してくれないと……。
近すぎて、心臓がもたない…………。)
「い、一ノ瀬さん?聞いてます?」
トキヤ「あ……。」
ようやく肩から手を離してくれた。
けど、その手は私の腕を掴み、ぐいっと一ノ瀬さんの方へと引っ張った。
そして、私の体は一ノ瀬さんの体によって優しく包みこまれた。
「あ、あああのっ!一ノ瀬さんっ!」
このように正面から抱きしめられるのはこれで2回目。
(やっぱり、恥ずかしい…………。)
トキヤ「すみません……。いきなり…………。
でも、もう少しこのままで…………いさせてください。」
上の方から聞こえた一ノ瀬さんの声はいつもより優しいけど、どこか悲しみの混じったものだった。
「……うん、いいよ。」
だから、私は出会った時のように突き飛ばすようなことはしないで、
ただ一ノ瀬さんに身をまかせていた。
一ノ瀬さんから伝わる熱が私の体、そして心までも熱くする。
そんな熱がとても心地よく感じた。
二人だけの図書室は静かすぎて、二人の息をする音さえ聞こえる。
そんな静けさが少し寂しいと思った。