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残り音

第2章 夢の終わり


教室の窓から遠くの山を見ていた。あの日読んだ漫画にあった山の上で蜷局を巻く蛇が思い出された。

この高校に入学して最初の授業は予想通り、いや、それ以上に退屈なものだった。
「よし!今日は最初の授業だから、俺の好きな太宰治の羅生門を紹介しよう!」
そう意気込んだ現国の荒木が教室に入って来たのが28分前、指定したのは教科書87ページから記載されたものだった。

「俺は太宰治の小説を愛読していて、有名な文言なんかは記憶してるくらいだ!お前らの中で文学系に進みたい奴がいるならいい機会だぞ!なんでも俺に聞け!」



片腹が痛かった。



(好きで有名な文言を記憶した程度か。)
そこから微睡みの中で揺蕩う時間が始まった。
そして今に至る。
「冬人!眠いのは結構だが、教科書はどうした?」
荒木が冬人に得意気に説教を始めようとした。
「お前には最後の文・・」

「外には、ただ、黒洞々たる夜があるばかりである。下人の行方は、誰も知らない。ちなみに先生は有名な文言を記憶してるそうですが、この一文ですよね。」

「な、、、なんでそんなことが分かる。それにこの一文だからどうした?」
「いえ、先生はお前には最後の文とおっしゃったので、自分が記憶している文を教科書を忘れた生徒にわざと振り、読めないところで教科書を閉じて読み、生徒の尊敬を得たかったのかと思いまして。」
「ふざけるな!教師に対してなんだその態度は!?」
「では、その教師がいきなり章を飛ばして自分の好きな小説を読み出すのはどういう授業でしょうか?ついでに言うと、この最後の一文、教科書ではただと黒洞々が続いていますが、実際は句読点が入ります。」
荒木は焦って閉じかけていた羅生門の最後のページを開いた。確かに続きで書かれているが、それが正しいのかどうかを判断する術を荒木は持ち合わせていなかった。
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