第6章 意外に繊細なんです/前編
「サー、港町に海賊が出たそうよ」
「アア?またか」
「いってらっしゃい」
クロコダイルは面倒くさそうに椅子から立ち上がって、そのまま砂となってザラザラと音をたてながら屋外へ出ていった。その際に机の上からいくつか書類が落ちたので、ロビンは能力でそれらを拾い集める。
「また海賊~?」
靴音を響かせ、シャルラが気だるげに現れた。
シャルラは普段用意された部屋で寝ていて、朝が弱いのか昼頃にしか起きてこない。今は昼前だが、恐らくクロコダイルが出て行った気配で起きたのだろう。
「あら、おはようシャル。」
「おはよ、ロビンちゃん。海賊が最後に来たの三日前くらいじゃない?英雄サマは大変だねぇ」
そう言ってシャルラは欠伸を噛み殺しながらクロコダイルの椅子へと腰かけた。机に突っ伏してゆっくり深呼吸をする。
「はぁ~~~鰐の匂いっ…」
「…………」
普段シャルラを慕っているような節さえあるロビンも、この行為だけは少なからず引いていた。
この行為というのはつまり、起きてすぐクロコダイルの匂いを嗅ぐという(ロビンに言わせれば)奇行である。クロコダイルがいる時には本人に抱きつくなり頬擦りするなりして嗅ぐのだが、いない時には今のようにそれまでクロコダイルがいた場所の匂いを嗅ぐ。
何故既にいないクロコダイルがそれまでいた場所がわかるのか。見聞色の覇気でも使っているのだろうが、覇気の無駄遣いじゃないだろうか。ロビンは口出ししないが、その辺りは不思議に思っていた。
しばらく二人が雑談しているとクロコダイルが帰って来た。怪我はなかったが、前髪がはらりと垂れていて、少し疲弊している様だった。
「おかえりハニー。珍しく苦戦したみたいだね~」
シャルラがにやりと人の悪い笑みを浮かべて出迎えるとクロコダイルは思いっきり眉をしかめて彼の横を通りすぎた。
「風呂を用意しろミス・オールサンデー」
「はい」
クロコダイルの機嫌は相当悪いらしく、ロビンに低く命令したきりソファーに身を埋めて動かなくなった。