第8章 〜奇蹟〜
その後、電化製品を見てきらきらと目を輝かせながら原理を調べる玲に少し嫌な予感を抱きつつ。
日が暮れる前に尸魂界に帰ってきた冬獅郎と玲は、現世でのバウント騒ぎには全く関与しなかった。
ただ観光してきただけの玲に元流斎が文句を言うも
「だってお爺ちゃん、呉々も余計な事はするなって言ったじゃない」
出発前の約束を復唱する彼女に一蹴されて。
一日でも仕事をサボることを良く思わない冬獅郎に連れられて戻って来た十番隊隊主室。
「冬獅郎、真面目すぎるから疲れるんだよ?」
半ば呆れている玲を横目に筆を動かす冬獅郎は、確かに自分が損な性格をしている事は自覚している。
「そう思うなら少しは手伝え。元はと言えばお前の所為だろ」
取り敢えず期限の近い書類だけでも片付けようと整理しながらちらりと玲を見遣ると。
彼女は少し考えた後、ふわりと笑った。
「この後、特訓受けるなら、手伝ってあげる」
「あれは冗談じゃ無かったのか」
溜息を零した冬獅郎に、玲は不思議そうに首を傾げる。
「なら、上がった霊圧完全に制御出来るようになったの?」
「…いや」
的確に痛い所を突いてくる彼女に、肩を落とす。
どの道玲の言う特訓とやらも避けられはしないのだろう。
わかった、と頷くと、徐ろに書類の束を取り上げる彼女。
「これだけ済ませれば良いのね?」
返事をする間もなく、さっさと筆を動かす玲。
速読、なんて生易しいものではない。
あれは恐らく現世の複写機なんかより仕事が早い。
四半刻のさらに半分で書類の山を片付けた玲は、少し待っててと言い残して隊主室を出て行った。
残された冬獅郎は、彼女の存在に依存しない様にとしなければと、目を閉じてこめかみを押さえた。
否、もう大分手遅れな気もするが。