第7章 〜現世〜
「伊達に隊長なんざやってねぇよ。この程度の買い物で心配すんな」
暫く悩んだ玲は、やがてこくりと頷いた。
「向こうで給金出たら返すね」
可愛げの無い言葉と共に。
「良いって言ってるだろ」
妙に頑固な玲の手を引いて店の中に入る。
途端、きらきらと目を輝かせて彼女が見つめる先にあったのは、澄んだ翡翠色の宝石に銀色の装飾が施されたピアスだった。
「これか?」
「あ、うん」
自分に酷く良く似た色に戸惑いながらも取り上げると。
玲は嬉しそうに笑った。
会計を済ませて店を出ると、玲は近くの広場ですぐにそれを耳に付ける。
華奢な銀細工に翡翠の石が映えるそれは、やはり色合いが似過ぎていて。
「なんでそれなんだ?」
気になって冬獅郎が問うと。
「この翡翠色、綺麗でしょ?冬獅郎の目にそっくりだもん」
微笑んだ玲に恐らく他意は無い。
しかし、隊長となった今でこそ少ないが、昔は気味が悪いと良く陰口を叩かれたこの色を、純粋に綺麗だと言われた彼は、玲を腕の中に閉じ込めていた。
「人前だと嫌なんじゃ無かったの?」
不思議そうにしながらも、抵抗する様子は無い彼女の額に口付ける。
「二度と会う予定もねぇ奴等なら見られても困らねぇだろ?」
耳許で囁くと、玲は納得した様に冬獅郎に身を預けた。
今後会うかもしれない高校生がそれを見て目を覆っていることには気付かずに。
「うわぁあ、なんだよぅ、あの無駄に目を惹く美男美女カップルはぁ!人前でイチャイチャすんなよぅ、周り見やがれこのやろぉ〜!」
全力で背を向けて負け犬の如く逃げて行く彼は空座第一高校の浅野啓吾。
たまたま学校を休んで姉に買い物を命じられた、黒埼一護のクラスメイト。
彼が玲や冬獅郎と再会する日はまだ遠い。