第7章 〜現世〜
「ちゃんとお話したよ?」
「どんな話し方しやがった」
「再現する?」
するりと首に腕を回そうとした玲の腕を掴んで止める。
「待て。嫌な予感しかしねぇ」
それを見た乱菊が、感心したように言葉を漏らした。
「隊長。強くなりましたねぇ」
「何にだ」
「え、勿論、玲に」
確かに、その美貌故に、彼女に強く言える男は少ない。
今の様に迫られてあしらえる者などほぼ皆無。
冬獅郎に今それが出来ているのは、部下達の前だからと言う矜持があるからで。
本来なら、既に陥落しているであろうこのやり取りに、檜佐木は目を逸らし、綾瀬川はきらきらと玲を見つめ、吉良は冬獅郎に同情の眼差しを投げていた。
「むぅ。冬獅郎が駄目って言っても私行くよ?限定霊印も押してもらってきたもの」
すっと自分の胸元を指差す彼女。
そこに一番隊の霊印が刻まれているのを目にした冬獅郎は、溜息を吐いた。
「俺に許可取る意味あんのか…」
「この件の指揮官は冬獅郎だから、ちゃんと指示貰って行けってお爺ちゃんが」
「そうか。なら却下だ。お前は残れ」
彼女の言葉を聞いて、まだ止められると判断した冬獅郎は、即座にそんな言葉を口にした。
否、してしまった。
「とーしろう…」
瞬間、目を潤ませて鮮烈なまでの色香を纏った玲にたじろいで一歩下がる。
「あ〜玲、先に行ってるから隊長口説き落として追って来なさいね!」
直様玲のそれにあてられそうになった檜佐木と、目を見開いて固まる綾瀬川の首根っこを掴んで、乱菊が声を投げる。
「吉良、あんたは大丈夫よね?行くわよ」
同性であっても欲を掻き立てられそうな程の危険物と化した玲から、無理矢理視線を外して呆然としていた吉良を引き戻す。
そのまま瞬歩で穿界門へと走り出した乱菊の後ろで、冬獅郎の怒鳴り声が響き渡った。