第2章 療養
寝返りをうとうとして体がきしんで、その痛みに目が覚めた。
やけにフカフカで柔らかなベッドだ。それに何だかとても良い香りがする。香りのもとを辿ろうと目線を動かせば、枕元の小さなサイドボードに見事な花が活けられていた。
良い香りの出所はどうやらその花らしい。
ここは何処だろう。
私はゆっくりと体を起こすと改めて周囲を見回した。そこは小さな部屋で真っ白なカーテンに真っ白な壁紙。物は少なくて寂しいけれど清潔感が有る。
そんな事を考えていると扉が開いた。
扉から入ってきたのは、仲の良い同僚のアンナだった。少し疲れているような気がする。彼女が瞳を私へと向けて、視線が重なると一瞬泣きそうな表情を浮かべて駆けてきた。
「ハルラ!」
そのまま、私に飛び付くとわんわんと泣き出した。容赦なく抱き付かれたものだから体が痛い。
「アンナ、いたっ、痛いよ」
「ハルラ大丈夫!もう大丈夫だからね!?」
アンナは泣きながらそんな事を口にしている。
何が大丈夫なのだろうか、それよりさっきから体が痛むのは何故だろう。
特に先程から下腹辺りが痛くて堪らない。口では言えないような場所が痛くて、しかも何か異物が埋められているような違和感が…
「……っ」
私は思い出した。
そうだ、私は仕事から寮へと戻る途中に拐われてそのまま男の人に…
そこまで考えて、カタカタと小さく体が震え出した。何とか抑えようとするのだけれど、その震えはおさまること無く。意識すればするほど余計に震えが大きくなる。
「アンナ、私…私…っ」
誰かも解らない人に私の体は汚されてしまった。まだ結婚もしていない、好きな人にだって好きとも言えていない。
こんな事なら、早く実家に戻って見合いでも何でもしておけば良かった。セルナール様に好きですと伝えて玉砕でも何でもしておけば良かった。
悔しい、悔しい悔しい!
「う、うわあぁぁん!」
私は男達に抵抗出来ず、されるがままになっていた恐さと悔しさに泣いた。
アンナにしがみついて、アンナから香る甘い香りと柔らかな感触に促されるまま大声を上げた。アンナは気持ちが落ち着くようにと私の頭を何度も優しく撫でてくれる。
「うぁ、う、わぁぁぁぁ!」
恐さとか悔しさとか後悔とかこれからの不安とか、色々な感情がぐるぐると頭の中を巡り、私はとにかくひたすらに泣いた。