第9章 和婚式
アキの卒業祝いとして
二人で旅行に行った時、
夕食の席で、俺から切り出した。
『無事に仕事も決まったことだし、
あとはアキの永久就職先だな。』
『?』
小さな箱を取り出す。
『アキ、仕事が落ち着くまで、何年でも待つから。
だからいつか、俺と結婚してくれ。』
箱の中の指輪を目にしたアキは
懐かしそうに言った。
『高校の卒業式の後のこと、覚えてる?』
『お前が体育教官室に来たとき?』
『そう。
私が教官室の扉を開けた時ね、
ハジメ、すぐに振り向いたんだよ。
"来る"ってわかってたみたいに。
あの時、思ったの。
待っててくれたんだ、って』
…そうだった。
あの時、俺は、
他の先生や生徒じゃなくて、
アキの、
アキの足音が近づいてくるのを待っていた。
絶対来ると、信じてた。
『私、ハジメのことを
本当に好きだと思ったのは
あの時だったんだと思う。
女子高生の先生への憧れ、とかじゃなくて
私の気持ちをちゃんと受け止めてくれる
男の人だって意識したんだよ。
卒業式の日から
ちゃんと好きになるなんて
本当にバカだって何度も思ったけど…』
俺は、アキの薬指に指輪をはめる。
『終わりが、始まりだったんだな。』
…俺もだよ。
最初に出会ってからここまで、
随分時間がかかっちまった。
終わりに見えても、
そこはまた次の始まりで。
何度も何度も終わりを覚悟したからこそ、
それが、わかる。
これからも俺たちは、
たくさんの"初めて"を一緒に経験しながら
次の"始まり"を探し続けていく。