第9章 和婚式
『いらっしゃいませ、お一人様ですか?
お好きなお席へどうぞ。』
店が混んでなくてよかった。
早瀬に気付かれないように
背中側をまわって移動し、
真後ろの席に座る。
…別れ話がもつれている、
ということはすぐにわかった。
『ね、アキちゃん、なんで別れるの?
俺はアキちゃんのこと、大好きだよ。』
『…ごめんね、ヒロくんは全然悪くない。
私が悪いんだよ。』
『俺は悪くないのに、なんでダメなの?』
『告白されたの初めてだったから、
嬉しくて、
ヒロくんのことよく知らないのに
付き合った私が悪いの。
本当に、ごめんなさい。』
『俺、アキちゃんの言うこと、
なんでも聞いてあげたじゃん。
俺さ、きっとアキちゃんのこと
幸せにしてあげられるよ。
だって、俺の実家、建設会社でさ、
俺、そのうち跡継いで社長になるから、
俺と結婚すれば、就活もしなくていいよ。
それで社長夫人になれるんだよ。
俺、アキちゃんが
別れようって言ったこと、忘れてあげるから。
俺たち、まだ始まったばっかりじゃん。』
…
…
『俺俺俺俺、うるせーな!!』
…聞いていられなくて、
つい、立ち上がってしまった。
『は?あんた、誰?
アキちゃん、この人、知り合い?』
早瀬は、あまりの驚きに
言葉が出ないようだ。
ちょうどいい。
ここで『先生』なんて呼ばれたら、
俺もちょっと、やりにくいから。