第9章 和婚式
『先生、私、ちゃんと出来た?』
『あぁ、100点だ。』
俺の"特別授業"は、終わった。
でも一方で、男の俺としては、
何も知らずに
旅行を楽しみにしているであろう
早瀬の彼氏への罪悪感があるわけで…
早瀬がシャワーを浴びている間に
タクシーを呼んだ。
このまま一緒に眠ったら、
取り返しのつかないことになるのは
間違いないからだ。
『先生、また来ていいですか?』
おぁ~、出た。一番つらい質問だ。
本音と建前のどっちで答えるべきか。
『ね、先生…また会ってくれますか?』
…教師として答えることを選ぶ。
『何言ってんだ。さっきのは、
お前と彼氏がうまくいくように、っていう、
先生からの特別授業だったんだぞ。』
…言葉にはしてみたけど、
目を見ては言えなかった。
『そうですよね…
先生、ありがとうございました。』
『礼なんて、言うな。』
…さっきまであんなに触れあっていたのに、
今はもう、手を握ることすら、出来ない。
『タクシー、ありがとうございます。』
『あぁ。気を付けて。』
…見送りにも、出ない。
出来るだけ、
ここに心を残さないようにしてもらいたいから。
『先生、それじゃ。』
『おぅ。』
バタン、とドアが閉まる瞬間、
思わず、声をかける。
『彼氏のこと…好きになれるといいな。』
返事はなかった。
聞こえなかったのかもしれない。
『…もし、もしも別れたら、
そん時は今度こそ、俺んとこに来いよ。』
という言葉を飲み込んだ自分を、
褒めてやりたい。
10代の彼らの恋愛に首を突っ込むには、
俺は立場も年齢も、違いすぎる。