第9章 和婚式
『まずは…』
早瀬を抱き締める。
肩にも背中にもギュッと力が入ってる。
緊張してるんだろうな。
『力、抜いて…
相手の体にもたれかかるくらいでいいから。』
フッと力が抜けるのがわかる。
『そうだ。』
俺にかかる早瀬の重みと柔らかさ。
…忘れないでいたくて、
必要以上に深く呼吸してしまう。
そうしないと、
何か不用意な言葉を言ってしまいそうだから。
止まるな。何も考えるな。
次に…次にいかなくては。
両手で頬をはさんで顔をあげさせる。
『そして、キス。』
これからキスだというのに、
俺の胸はなぜこんなに痛いのだろう。
…ダメだって。何も考えるな、俺。
『目をつぶって。最初は、軽く。』
額に軽く。
頬にも。
まぶたにも。
そして、唇にも。
…今まで何度も、俺の名前を呼んでくれた唇。
これからは、俺の知らない誰かの名前を呼ぶ唇。
『少しづつ、深く。』
唇を吸う。
舌でそっと割り入り、
前歯をノックすると口が開く。
その隙間から、口内へ侵入する。
舌を呼ぶと
ぎこちないながらに
応えようとしてくるのが堪らない。
もっともっと、
激しくむさぼりたい。
息が止まりそうなくらいの
思いを込めたキスがしたい。
でも、そうしてしまったら
俺の愛情が伝わってしまう。
それは、ダメだ。
早瀬は、俺のものじゃないから。
『初めてにしちゃ、上出来だ。』
…先生らしく聞こえだろうか?
パチリと目を開いた早瀬が
恥ずかしそうに笑う。
『キスの次は…』
『次は?』