第36章 『出発』
等価交換の密約はひっそりと、そして何よりも強固に僕らを縛る枷だ。
共に罪を背負い歩く。
また、誰かが道を踏み外さないようにと誓って。
僕はあれから一冊の本を書いた。
クセルクセスの悲劇とホムンクルス達の悲しいお話。
錬金術師なら誰もがわかるような暗号を乗せて。
『錬金術は等価交換であり、生は生でしかなく、死は死でしかないのだ。罪を犯すべからず。』
僕は犯した罪を…失った仲間を取り戻さない。
きっと彼らは真理の扉の中で僕を恨んでいるに違いない。
一生かけて償う事も逃れる事も許される事もないだろう。
忘れる事の無いように、そして、深く強く自分に刻みつけるように。
僕はまた筆を取り、ジプシーの歴史を刻んでいく。
嘘偽りなく。
しゃらしゃらと流れゆく偽りの無い美しい水のような歴史を。
凍ったり、熱くなったり、濁ったり、消えたり、流れたりしていた水のようなジプシーの歴史を。
「ビーネ。出迎えもなしかよ。」
「あぁ、エドワード。」
あれから二年。
「おかえり。」
「ただいま。」
僕は中央に留まり、家族を守り、また旅に出た者たちの帰りを待つ。
「まだ書いてんのか。」
「書いても書いても書き終わらないよ。」
「書き終わったらどうすんだよ。それ。」
「エドにあげるよ。」
「いらねぇよ、んなもん。」
「そう?最後のページにラブレターでも書こうと思ってるんだけど?」
「…いる。」
「あっはは、正直だなぁ。」
父さん。僕はちゃんと笑顔で前に進めているよ。
母さんとエリシアのことも父さんみたいにちゃんと愛して守っていける。
失わせてしまったジプシーのみんなの事も、悲しいし苦しいけど愛して行こうと思います。
そして、大切な友人たちも。
大好きです。
僕は、罪を背負って生きていく。
折れそうなこの心の半分はエドワードが支えてくれています。
だから、生きなければいけません。
僕は、生きなければならないのです。
Ende ーエンデー