第7章 建前と本音
ある日、雑誌を縁側で開いて読んでいた春香に、鶴丸が声をかけてきた。
鶴丸は雑誌を横から眺め、ふと、目に入った映画の宣伝に興味を持った様で、行ってみたいと言い出した。
春香も同じものが気になっていたので、現世へ行く事になった。
他の者も誘ってみたが、誰も行きたがらないので、結局二人で行く事にした。
「ねぇ、本当に二人で行かせて良かったの?しかも、昼から出掛けたって事は、帰りは確実遅いよね?」
安定が、畑仕事の手を止めて、心配そうに加州に言う。
「別に、二人で行った所で何か問題あるの?俺らは、内番の仕事投げだせないし、他に行く奴がいなかったんだから、しょうがないじゃん?」
今日何度目かの、同じ質問に、加州は少しうんざりしている。
「…お前…鶴丸さんの噂、聞いた事ない?」
「噂?」
怪訝そうな顔の加州に、安定はコクリと頷く。
「鶴丸さんって、手が早いんだって。」
「…は?」
加州の眉間のシワが深くなる。
「だから!鶴丸さんって、これまで、歴代仕えてきた女主とは、基本的に、体の関係持ってたって噂があるんだよ!」
その言葉に、加州は持っていた水の入った桶をひっくり返した。
「うわっ!ちょっと!冷たいじゃないか!」
加州は呆然としていて、安定の言葉が耳に入ってない様だ。
「はぁ…動揺するのはいいけど、今更後悔したって、出かけた後だからね。僕たちだけでは現世に行けないし、帰ってくるまでどうしようもないよ。それに、あくまで噂だからね。前の主の記憶は、当然ながらに消されてしまうしさ。」
「そうだよな…そうだよな!何より、鶴丸さんがここに来て一年以上経つけど、今まで何も無かったし!は、はははっ!大丈夫!大丈夫…」
加州は動揺から、この後まともに作業出来なかったのは、言うまでもない。