第45章 【王者の命】その5

美沙は毎度のとおりまったく悲観的になる様子もなく語る。

「寒河江、赤倉、大丈夫か。」

美沙が身の上話をした後の傾向をよくわかっている日向が白鳥沢の2人に尋ねるが既に遅かった。
寒河江も赤倉も固まっている。

「苦労してたんだな。」
「いや言うほどじゃない、寒河江君。ラッキーな事に縁下さんちには望んで引き取られたし。」
「でも親戚でも何でもない他所の家だろ、よく行くって決めれたな。」
「他でもよくそう言ってもらえるけどどうってことはない、赤倉君。」
「そうなのか。」
「私はただ」
「美沙それダメなやつっ。」
「死にたくなかったから。」

日向の突っ込みが入ったもののいつもどおり駄目だった。
白鳥沢の1年2人は予想外だったであろう軽く放たれた、そのくせ重い一言にブシャッと涙が吹き出していた。

「縁下さんっ」
「美沙でいい、寒河江君。兄と混ざってややこしいし。」
「俺らには気にせずバンバン関西弁でいいからっ。なっ、赤倉っ。」

美沙は戸惑うが話を振られた赤倉もまたブンブンと首を縦に振っている。

「そ、そう。それやったら私も助かる。」
「わ、ガラッと雰囲気変わるんだな。」
「家でも関西弁で通してるし、どうにも標準語はやりにくい。喧嘩の時とかはっきり言わなあかん時は逆やけど。」
「てか美沙って標準語の時何か喋り男みたいだし。」
「日向、あんた今回えらい好き放題言うて。後で覚えときや。」
「で、出来るもんならやってみろよ。」
「ふーん、ほなうちの兄さんとかバレー部の人らおらん時に読めへん漢字とか英単語があっても一切フォローせんからね。」
「ぎゃああああっ。」
「翔陽、お前そんな状態なの。」
「笑うな寒河江っ。」
「あと兄さんの次に変な用事持ち込んでくるんも日向やな。」
「変な用事じゃねーしっ。」