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夕焼けの色、歓びの種。【西谷夕】

第15章 歓びの種


 手を繋いで帰宅した二人は、とりあえず夕の部屋へ転がり込み、二人並んでぺたんと床に座っている。
 「ゆう…」
 不意に、甘えたような声で、夕の胸にみなみが頬をすり寄せてくる。
 「何デレてんだよ急に」
 生まれてこの方子供扱いしかしてくれなかったくせに、とからかうように言いながら、みなみの髪に手を差し入れる。
 「だって……。がまんしてた、ずっと。夕に、さわりたかった。大好きだったから。」
 心地良さそうに目を細めながら、みなみは続ける。
 「ぎゅってしたかった、ずっと。子供の頃とはちがう、大人になっておっきくなった夕に、今度は私がぎゅってしてほしいって、ずっと思ってた」
 今でもだいぶ小さいけど、と小声で付け足したのを夕は聞き逃さなかったが、まあ、この際それはよしとしておこう。
 「もうくだらねーこと気にすんのやめとけよな、男らしくねー」
 「女だよ、ばか」
 くすくすと笑うみなみの腰に腕を回し、ぎゅっと抱きすくめる。
 「俺だってずっと、がまんしてた」
 夕のてのひらが、みなみの頬に触れる。
 「好きだ」
 「ゆう…」
 「俺はお前が、大好きだ」
 夕の唇が、みなみの唇に重なる。
 一瞬驚いたように身をすくませたみなみから力が抜け、夕を受け入れていく。

 あの、小さかった幼馴染みに抱きしめられて、宝物を扱うようなキスをもらうことが、こんなに幸せなことだとは、思わなかった。
 名残惜しげに離れた唇で、みなみは言う。
 「世界、終わってもいい」
 あなたに愛されて。
 「ばか、はじまってんだろ」
 呆れたような顔でそう返し、再びみなみの体を抱きしめる。

 窓の外にはもうすでに静かな夜が訪れ、幼馴染みたちの部屋から漏れる光が、そっと夜の色に溶け出していった。
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