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夕焼けの色、歓びの種。【西谷夕】

第13章 これまでと、これから。


 練習試合を観戦したあと、みなみはまっすぐ家に帰らず、近所の公園に来ていた。
 昔よく夕と遊びに来ていた。中学校へ上がる前の夕に、制服デートをしたいとせがまれやってきたのも、何故かこの公園だった。
 あの時夕が、目が回るほど逆上がりをしていた鉄棒に近づき、そっと手を触れる。

 そうして思い出す。
 ちいさな夕がみなみの手をとり、あっちにいこうこっちにいこうと日が暮れるまで連れまわされたこと。
 小学校から持って帰ってきた観察の宿題用のアサガオを、夕が三日で枯らし、結局みなみの家の庭のアサガオを毎日観察しにやってきていたこと。
 少年バレーのチームに入り、嬉しそうにボールを追いかける日々が始まったこと。
 県外にできたらしいテーマパークに一緒に行こうと計画し、交通費からまず捻出できず、結局二駅先のちいさな動物園へ行き、なんだかんだで二人してバカみたいに楽しんだこと。

 ――夕との記憶は、ひとつひとつ取り出そうにも多すぎて、もうカテゴリー分けすらできない。あんまりにも日常に密着しすぎているのだ。
 あの屈託のない笑顔が隣にあることが、みなみにとっての当たり前だった。

 あの秋晴れの日、小さなベビーベッドに横たわった夕を見た瞬間から、何もかもが始まって、いつの間にかもう、切り離すことのできない自分の一部みたいになっていた。

 夕の笑った顔は、みなみの宝物だ。
 夕を愛している。そして、たぶん、恋もしている。
 あなたの幸せを、と思うばかりでどうしても向き合えなかったけれど、本当は心のどこかで逃げていた。
 私なんて年上だし、と思ってさえいれば、深く考えずに済んでとても楽だった。最初から諦めを知っていれば、いつか来るかもしれない夕の心変わりに怯える必要もなかった。
 けれど、もし。
 もし本当に、夕の幸せが、私とともにあるのなら。それなら、私は全力で夕を幸せにしたい。
 絶対にお前を幸せにすると言い切ってくれた夕とおなじくらいまっすぐな気持ちで、同じ言葉を、返したい。
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