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【恋乱】短編集

第7章 横恋慕 ~片倉小十郎~


「お茶をお持ちいたしますね」
「ああ、頼む」
「はい、かしこまりました」

 さすがに四段は危ないので、一段は端に避けて三段だけ重ねて膳を持ち上げて琴子は部屋を後にした。

「持って行ってやらないのか?」
「あぁ…あまりに恐縮するから、よほどのことがない限り手伝わないことにしたんだ」
「なるほど。琴子らしいな」
「――昨日、女中が話しているのを聞いたんだが…」
 おもむろに切り出す政宗に、成実と小十郎は目を見合わせた。
 政宗が、女中の話を小耳に挟んだ上に自分たちに話す、なんて滅多なことではないからだ。

「…なんだ?」
「いえ。それで、女中たちはなんと?」
「ああ。最近、城下で琴子に言い寄っている男がいるらしい、と」
「男?!」
「琴子に、ですか」
 衝撃の内容に二人は政宗にぐい、と近寄った。
 男が三人膝を突き合わせて真剣な顔をするのは、軍議等以外では初めてだったかもしれない。

「あまり詳しい内容までは聞こえなかったんだが、何でも酒蔵の男だとか」
「酒蔵…?」
 どうして琴子が酒蔵なんかに、と成実は頭をひねる。
「そういえば、最近酒の買い付けも任されるようになったと言っておりました。料理に使う酒も選べるようになって嬉しいと」
「そうなのか。何でも、酒の買い付けの後はいつも上機嫌らしく…」
 そこまで言って、政宗の言葉が途切れる。
「……小十郎、顔がすごく怖いことになってるぞ」
 成実に言われて、小十郎は自分の顔が随分強張っていることに気づいた。

「まぁ…琴子のさっきの感じ見てりゃ、心配ないと思うけどな」
「そうだな。酒も、大方小十郎との晩酌に良いのが手に入ったから、とかじゃないか」
「……」
「「……」」

 無言で腕組みをする小十郎に、政宗と成実は口をつぐんだ。


 そこへ、茶を持った琴子が戻ってくる。
「失礼いたします。お待たせいたしました」
「ありがとう」
「お、今日の甘味はかすていらだな?」
 これ幸い、と成実は声の調子を上げる。
「明日はずんだ餅を頼む」
「はい、お任せください」
 にっこり笑う琴子を小十郎が見つめていると、
「小十郎様も、どうぞ」
 目の前にかすていらを差し出される。

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