第5章 23話 最後の嘘 補完
バルバトスのインターフェイスを積雪地帯用に書き換えていたフィアは格納庫では珍しい姿に思わず声をあげた。
「メリビット、どうしたの」
年上の女性相手にも敬語を使わないフィアを咎めることなく、メリビットはちょうど良かったと足を止めた。
「フィア、あなたはどう思う?」
主題のないまま質問するほど焦燥を隠しきれていないメリビットを見下ろして、しかし手を止めないままフィアは首を傾げた。
「なにが?」
「今の状況は異常よ。このままじゃあの子たちがどうなるか……」
恐らく彼女はオルガやおやっさんや子どもたちに直接説得しようとして失敗したのだろう。そして自分のところに来た、とフィアは推測する。
うーん、と手を止めて首を左右に振って考えて、フィアは端末から手を離した。
「メリビットの言うことは正しいと思うよ」
「それなら……!」
「でも正しいからってそれを選ばなきゃいけないの?」
「それは」
口ごもるメリビットに構わずフィアは言葉を続ける。
「確かにこのまま進めば破滅するかもしれない。でも、じゃあミカくんたちはどこに進めばいいの?メリビットはそれを示せるの?わたしはこういうこと以外は馬鹿だから、何にもわかってないのかもしれない。でも正論のために感情を押さえつけないといけないの?ビスケットが死んじゃった気持ちをどこに向けたらいいの?わたしたちは大人じゃない。まだ大人にはなれない」
列車のように止まることなく言ってしまうと、疲れたと水分を補給する。しばらくは振動とレールを跨ぐ音だけが響いたが、やはりメリビットがその沈黙を引き裂いた。
「あなたも黙って鉄華団について行くつもりなの?」
ボトルから口を離したフィアは迷うことなく頷く。
「わたしは雇われで正式な鉄華団じゃないけど、でもミカくんたちの行きつく先を見たい。ううん、この子に関わった以上見なきゃいけないんだと思う」
そこでバルバトスの鋼鉄の肌を優しく撫でたフィアは
「例えわたしも破滅することになっても」
と静かな声で付け足した。