第1章 小説役者の嘆き
「あ、こんにちは。えぇーっと、出演のオファーですか? 違う? あぁ、良かった。。聞いて下さいよ〜。僕、小説役者の 菜坂 和也 という者なんですがね」
因みに、小説役者とは小説の登場人物を演じる仕事である。
「そう、今みたいな地の文が嫌なんですよ。『小説役者とは』なんて言ったって、あなたもその位は知っているでしょう? え? 知らない? うーん、まぁ、それは良いとして。例えば推理小説の警官役を演ったとしますよ。そしたら、探偵役を持ち上げる為の努力が必要なんですよ。物語的には探偵が犯人を見つけるので、警官は決して真相に近づいてはいけない訳です。でも、何にもしない訳にもいきませんから、怪しく無い人をハナから疑って掛かるんですよ。でもって、マグレで当たりっていうのもNGですからね〜。どうするかというと」
和也は小声で続けた。
「探偵よりも先に真実を暴くんですよ。そしてそれを、迂回するんです。どうですか? 小説って言っても、役者の行動が、全部決められてはいないですからね。あとは、やっぱり苦労が多いのはSFやハードボイルドですね。これはーーー」
ーーー二日後ーーー
「ーーーで、こんな事もあるんですよ。で、どうするかというとですね、こう言ってやるんーーー」
ーーーさらに二日後ーーー
「ーーーんな感じで、なんで向こうの失敗の火花が、こっちまで飛んで来るんだ、みたいな?」
そのとき、和也は異変に気付いた。
「え? 何? シーンがカットされてる? え? もしかして、これ、小説なの? え、え、えぇえーーー⁉︎」
そう言って、後退りをすると、和也は急いで『おしまい』と書かれている幕を閉じた。
〜〜おしまい〜〜