第4章 今剣
パレードを見ていた地点から歩くこと1分、大きな本を広げたような外観のアトラクションがある。そこは結構な人気のアトラクションで、黄色いクマのぬいぐるみの物語を追体験するという内容のものだ。審神者と今剣は、その入口前で立ち尽くしていた。待ち時間は1時間、並ぶべきか否か。ここは予約券の配布されるアトラクションであるが、本日分はすでに配布は終了している。乗りたいのなら並ぶしかない。だが、とても1時間待ちとは思えない行列が目の前にある。不安げに見上げる今剣の手を握り、審神者は己に言い聞かせるように口を開いた。
「つーくん、覚悟はいい?ちょっと……いや、かなり待つけどここは押さえておかなきゃいけないところだから」
「はい、あねうえさま。とうにかくごはできています。いちじかんくらいならだいじょうぶです」
アトラクションの内容には全く不釣り合いとも言える悲愴感を持って、審神者と今剣は待機列の最後尾へと足を運んだ。
「ハチミツ大砲に当たるなんてラッキーだったね」
「はちみつたいほう、ですか?」
「そう、最後のくるくる回る部屋の中でハチミツの香りがする空気が発射されたところがあったでしょう?あれがハチミツ大砲なの。これに乗れば必ず当たるってわけじゃないからある意味運がいいんだよ」
アトラクション出口のすぐ側にある土産物屋でお土産を物色しながら、審神者は上機嫌だった。何度となく乗ったことのあるアトラクションではあるが、その実ハチミツ大砲に当たるポッドに乗ったのはそれほど多くはない。このアトラクション一番のお気に入りポイントを押さえられたのが嬉しくてたまらなかった。
「あねうえさまごきげんですね」
「うん、あれに当たるとハチミツになった気がするのよねー」
子供のようにはしゃぐ審神者の持つカゴの中に、今剣はそっとハチミツキャンディの缶を滑り込ませた。