第3章 御手杵
御手杵はグッタリしていた。変わった異国の置物を眺めていたと思ったら小さな部屋の中に並んだ椅子に座らされ、ベルトで固定された。何がどうしたのかもわからぬままに部屋そのものが急上昇した。一瞬外の景色が見えたと思ったら今度は急降下した。何度も何度も急降下と急上昇を繰り返す内に、だんだん気分が悪くなってきた。部屋が動きを止めた時にはもう、赤疲労で中傷を負った時と同じくらいのダメージを受けていた。よろよろとおぼつかない足取りで外へ出ると、近くのベンチへ腰を下ろす。飲み物を買ってくる、という審神者を声もなく見送って、御手杵は一人宙を見上げる。
なんだったんだ、あれは
審神者は全く平気そうにしていたのが信じられない。人間ならば耐えられるものなのだろうか。とはいえ今は己も人の身体を持つ身である。それなのに審神者は大丈夫で己はダメだった。後考えられるのは男女の差くらいか。もしかしたら人間の女の身体はああいうものに耐性があるのかもしれない。そんなことをぼんやり考えていたら、飲み物を手に審神者が戻ってきた。
「具合はどう?もし動けるなら少し移動しようか。立てる?」
飲み物を手渡しながら、審神者は労るように声をかけた。御手杵は飲み物を受け取り一口含むと、審神者に心配をかけないように普段と同じ調子で答える。
「おう、もう大丈夫だからいいぜ」
「良かった。じゃあこっちね」
審神者の後について行くと、火山をのぞむ池の岸辺に座り込む人々がいる。その人混みの後ろに空きスペースを見つけ、審神者は鞄から敷物を取り出した。丁度2人が座れるくらいの大きさに畳み、地面に敷くとその上に座る。御手杵にも座るように促した。
「今からここで何かあるのか?」
「うん、もうすぐハロウィン限定ショーが始まるの。ちょっと後ろだけど真ん中空いてて良かったわ」
鞄からビデオカメラを取り出し録画の準備を始め審神者は、御手杵に笑って語りかける。
「今度は寝ても大丈夫よ。ただちょっと後悔はするかもね〜。せっかくすごいもの生で見れるのにね」
「ああ、そのなんだ、すまねえ」
審神者の目が笑っていないことに気づき、御手杵は二度と居眠りはするまいと心に誓った。