第1章 残されたもの
「……美桜様―――――」
一期は、震えるように声を絞り出す。
視線の先で、捜し求めた彼女の姿が幻のように浮かび上がる。
木々の中、開けた空間には、水面が静かに吸い込む様な透明さを際立たせ、その上にそっと落ちる白い雪が、水に包み込まれるように消えていく。
儚さが、美しさと共に拒絶を醸し出す。
「美桜様……」
その息苦しさを打ち破るように、再度、声を身体の奥から絞り出す。
一期の声に、美桜の肩が僅かに震えた。
ゆっくりと廻らす視線が、一期のそれとぶつかる。
「一……期……?」
呼ばれる名に、最早、想いは堰き止める事が出来なくて、一期は地を蹴り走り出す。
そして、後ろから美桜を思いっきり抱き締めた。
その細い身体が雪に攫われてしまうような錯覚を覚え、回す腕に想いを込めては、更に強く抱きしめる。
「美桜様……消えてしまわないで下さい……心配しました……」
美桜を抱える一期の腕に、ぽたりと雫が落ちる。
美桜の白い頬を伝わり音も無く流れ出る涙は、痛い位に澄んでいて。
「……美桜……様?」
「……鶴丸が……」
美桜の口から零れるその名に、一期は胸を突き刺すような痛みを感じた。
それでも既に想いを抱いたその日から、この痛みには慣れていた。
今はただ、彼女の悲しみを救いたくて……
「……鶴丸殿が……?」
抱き締める腕に、力を込める。
今この手を離してしまったら、もう二度と手に届かないような気がして。
「鶴丸が……私に……雪をくれたの……」
そう言う美桜の瞳は、涙に潤んではいるが何か強さを感じさせて。
「鶴丸殿が……雪を?」
「そう……私が望んだ雪を―――降らせてくれたの……」