第1章 残されたもの
一期はその匂い袋を、先程の店主の許へと持って行く。
しかし、慣れない買い物は恥ずかしくて、真っ直ぐに顔を上げることが出来ない。
「あの……これを、お願いします」
日頃の彼からは想像が出来ない程のたどたどしさで、言葉を告げる。
受け取った店主は、にこりと微笑むと丁寧に包装をしてくれた。派手さは決して無い包装だが、可愛い中にも品の良さがうかがえた。
「はい、どうぞ」
「有難うございます」
一期は代金を台の上にのせると、些か安心したような表情を浮かべた。そして、そっと手渡された包みを受け取り、大切そうに懐に仕舞い込む。
その様子を見ていた店主は、一層柔らかい笑みを湛えながら一期に告げた。
「その香りが似合う方は、きっと……とても素敵な方なのでしょうね」
店主の言葉に、平静になりつつあった一期の心臓は、一気に跳ね上がった。
総てを見透かされているような気がして、相手を凝視してしまう。
それでも、目の前にいる店主の浮かべる温かい表情に促されるように、一期は顔を赤くしながらも、素直に答えを口にした。
「はい。とても素敵な方です」
真っ直ぐに言い切る姿が、この青年の有様を表しているようで、気持ちのいい響きを奏でた。
店主もその答えに満足をしたように、今日一番の微笑を一期に向ける。
冬の空高く輝く太陽の光に反射するように、青年の柔らかそうな浅葱色の髪が風に揺れる様を眺めながら、その明るい穏やかな笑顔が、これから先、曇ってしまう事などないようにと願ったのであった―――――