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【刀剣乱舞】 顧恋抄 【短編集/R18含】

第5章 紅に 蝕む 【小狐丸】





「ぬしさま……さあ、踊りましょう、か……」


すぅっと目を細め、息を吐き出す。
全身を、酷く冷たい血が流れ尽くす。


小狐丸はすらりと刀剣を抜き出すと、
距離を詰めるように一気に地を蹴り出す。
美桜はまるで待っていたかのように、
ひらりと身をかわす。

どこまでも憎たらしい方だと、心で舌打ちをするも
掠める香りが頭の芯を麻痺させ、
それさえも何故か、悦に感じる。

空気を切る音さえも、心地よく感じてしまい
ぶつかる剣先が、
互いの指先を絡めるような錯覚さえ覚える。



総てがまるで、情事のようで……



甘い罠に捕まってしまったのは、何時のことだったか。

それさえも、今はもう
霞がかった意識の中では、白濁し、所在など見当もつかず。

触れては離れ、
触れては離れる剣を伝わる振動は、互いの心音。

手に届くこの感触がある限り、ふたりは出逢い求め続ける。



それだけが、確かなる現実だから……



互いに互いが、紅い花弁を散らすようにその身に傷を刻み
ひとつひとつに、想いを込める。



それはあたかも、肌に落とす甘い接吻……



「小狐丸……貴方を殺すのは、私だけ……」
「……ぬしさま……貴女を絶つのも、私だけです……」



言の葉は、言霊。
囁く声は、甘い調べで身体に染み入る。



それは契り。



美桜さま……あなたの総ては、……私のもの

私の総てが、あなたのもの……



その日までは、他の誰にも、決して与えてなどやらぬ



……我が、想い。我が、命。




張り詰めた空気は、生命の声。
贖う心が求めるものは、断末の時。


他に逃れる術を知らず。
他に手に入れる術を持たず。


既に、歪みきってしまった想いなのか

それでも痛いほどの……純粋な……一途な想いを抱き―――――
……終わり無く繰り返す、生と死の旋律……



愛しいゆえに、傷を付け合う愚かな世界……



壊れた心に、たった一つ残るもの

それは甘く、切なく、
想い人に伸ばし続ける、決して届かぬ両の腕



哀しい声が、響き渡る



「誰よりも、あなたを抱きしめたい……
何よりも、あなたを愛している……美桜さま」






たとえ 剣を交えることなど無いとわかっていても












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