第2章 情報の共有【Ⅰ】 小さな背中
銀時side
「総一朗くんには悪いけど話を聞いている限り、男は悪いやつじゃない。」
ぴくり、と沖田は酒を飲みながら反応を見せる。
「アイツは自分達の罪をわかっているからだ。」
お前らは攘夷浪士を殺すときに躊躇うか?
お前らは攘夷浪士を殺すときに謝るか?
「謝らねぇよな。自分の選んだ道だから。」
_____________男は、うちの家訓です。と続ける。
「つまり、こう言いたい訳だな。
誰かがやらなきゃいけないこと、人殺しを正義だと思いはしないが、自分達がやる、と。」
『正義なんてただの方便ですからね。所詮後付けの理由でしょ。』
そう言い終えて『帰ろう。』と続けた。
女は躊躇った後、ゆっくりと立ち上がり頭を下げた。
「……帰るのか。」
銀時がそう呼び止めれば女は初めて含みのない柔らかな笑顔を見せた。
「私は彼のような大層な考えはありません。ただ……。」
首もとから鍵のついたネックレスを取りだし見つめる。
「ただ……自分が納得したい。正義とか世界を変えるとか、そんなものは興味ない。
ただ……安らかに眠ってほしい。
そんな、自分のエゴなんです……。」
小さな石が散りばめられた小さなネックレス。
憂いの表情を見せ、哀しみを消そうとするようにまばたきをする。
「白夜叉様。」
名前を呼ばれ反応すると彼女は心底ホッとしたような顔をしていた。
「よかった。」
「な……。」
_____________よかった。
よかったって言ったのか。
「お前、本気で誘いに来てなかったのか。」
「本気でした。」
でも、と女は泣きそうな表情で、手を堅く握りしめながら。
「よかった。」
その言葉が最後だったのか、背を向けて歩き出す。
黒く長い髪が、ゆらりゆらりと揺れ、儚い。
あんな小さな背中に何を乗せているのだろう。
追いかけなくては。
心のなかでそう思っても足が冷たくなったかのように動かない。
ここで初めて銀時は気がついた。
動揺していたことに。
心は震え、手足がしびれるような感覚。
頭のなかが熱くなったり、冷えていったり。
男の声がまだ耳の奥で木霊のように再生させられている。
銀時はある意味呆然としながらその背中を見送った。