第3章 月の宴 審神者サイド
誰にも知られないようにするつもりだった。なのにどうして、よりにもよってあの人に泣いてるところを見つかってしまったのか。悔しくて、辛くて泣いてるところなんて見せたくなかったのに。
私は審神者になってまだ日が浅い。当然刀剣男士は揃ってないし練度も低い。だから出陣しても所謂雑魚の相手ばかりだし演練でも勝ったことはない。特に演練では私とそれほど変わらない年頃の子なのに、練度の高いレア刀と呼ばれる刀剣男士を何人も連れているのを見ると悔しくてたまらなくなる。昨日の相手もそうだった。ウチの本丸にはいない大太刀が3人、残りもレア刀の太刀ばかりで、挨拶に行ったら「今日は楽勝」なんて言われてしまった。案の定あっけなく勝負はついて、相手の審神者は笑っていた。みんなの前では堪えていたけど、悔しくて、辛くて、1人で泣ける所を探して書庫へと閉じこもった。そしたら、何故か大倶利伽羅がやってきて、手拭いを貸してくれた。グチャグチャな泣顔なんて見られたくなくて顔を伏せたままの私の髪にそっと触れて、「何かあったら…俺を頼れ」と言ってくれた。どうしてそんなに優しくしてくれるの。普段は目すら合わせないくせに。また一粒、涙が零れ落ちる。
気の済むまで泣いていたら、もう夕暮れ時だった。流石に部屋に戻らないといけない。今度こそ誰にも会わないようにと思っていたのに、廊下を曲がった所で薬研に会ってしまう。
「よう大将、今夜の夕餉は月見の宴だってよ。歌仙の旦那が張り切ってたぜ」
薬研はそれだけ言うと庭で待ってる、と先に行ってしまった。とりあえず庭へ行けばいいのか。今日って何かあったっけ?
庭へ出るとみんなが待っていた。膳の上には私の好きな物ばかり盛られている。紫の空に満月が見えてくると、お団子とススキが供えられた。あ、今日って中秋の名月だ。それでお月見なのか。みんなの方を見ると、優しく笑っていた。
食事が終わると、私は大倶利伽羅を探した。池向こうの松の木にもたれているのを見つけて駆け寄る。
「大倶利伽羅、あの、手拭いだけど……」
「お前にやる。好きにしろ」
私の言葉を遮り、ゆっくりと歩き出した。そしてすれ違いざまに私の髪を撫でて言う。
「お前は笑っていた方がいい」
ズルい。そんな顔で言われたら。どうすればいいのかわからずに私はただ、立ちつくしていた。胸の奥が、熱くて痛い。