第9章 流星
今夜は朔だから、星が良く見える。
いつの間にか始まった酒席を抜けて庭へと出る。酔い覚ましを兼ねて星を眺めながら散策していると、池の畔に見慣れた背中を発見した。なにやら熱心に星空を見上げているようで、こちらには気づいていない。足音を忍ばせて背後にまわり、好機を伺うとぼつりと言の葉が落とされた。
「やっぱり本丸からじゃあ見れないかぁ……」
誰に言うでもない小さな呟きを不思議に思い、つい問いかけた。
「なにをお探しかな?」
「っ⁈鶴丸?」
慌てて振り返るその顔に、驚きの色が濃く浮かぶ。我等が主は気配に疎い。驚きを提供する相手としては最適だ。毎度毎度、それは見事に驚いてくれる。こちらとしても驚かせ甲斐があるというものだ。
「はははっ驚いたか⁈」
「心臓に悪いからやめてって言ってるでしょ?なんでいつも私ばっかり驚かすの⁈」
「すまんすまん。主の驚きっぷりが一番でな。それに君の驚いた顔があんまり可愛らしいのでね」
つい本音が出た。主は顔を赤くして俯いてしまった。少し揶揄い過ぎたか。
「それで、熱心に星空を眺めてなにをお探しかな?」
「流れ星。今夜は流れ星が沢山見えるらしいの、現世では」
本丸の空は幻だ。雨も降るし月も満ち欠けするが本物の空ではない。映された幻に、現世のような流星が流れるとは思えない。
「流れ星?何故そんなものを」
「沢山あるなら一つくらいは願いを叶えてくれるかもしれないでしょ?」
「星に願いをかけようと?なんだ、好いた男でも出来たか」
「っ⁈」
図星、か。主とて年頃の女子だ。そういう相手が出来てもおかしくはない。だが少しばかり面白くないな。そう思うと居ても立ってもいられなかった。
「こいつは驚きだ。で、どこのどいつだ?」
「えと、あの、その」
「なんだ、近侍の俺にも言えないような奴なのか?」
「そうじゃなくて」
「じゃあ誰だ?ロクでもない輩なら斬る」
「え、ちょっと待って鶴丸どうしてそうなるの⁈」
「当たり前だろう?俺の大切な主をかっさらおうというのだから」
「いや、ムリだから。自分で自分斬るとかムリだから」
「え?」
「あ」
「なるほどな。こんな驚きなら大歓迎だ。俺は君を愛している。聞かせてくれ、君の気持ちを」
「わ、私も好き、です」
そっと抱き寄せ囁いた。これからは星ではなく俺に願ってくれと