第1章 読書
今日はバスケ部の練習がお休みだから、久々に真太郎の部屋でお家デート。なのに、真太郎ってば先輩から借りた本に夢中でちっとも相手をしてくれない。仕方なく本棚からテキトーに1冊引っ張りだすと、真太郎の背後に背中合わせで座り込む。抗議を込めて大きな背中にもたれかかると、少し不機嫌な声が返ってきた。
「重いのだよ。座るのなら隣に座れ」
「せっかくのお家デートなのに誰かさんが構ってくれないから〜」
更に抗議の意味を込めて体重をかけると、あからさまに大きなため息をつかれて押し返される。
「後少しで読み終わるから待っているのだよ」
「真太郎はあたしより本のがいいんだ」
つい出てしまった本音。もたれかかるのを止めて膝を抱えた。自分で言ってて悲しくなってきたからそのまま抱えた膝に顔をうずめる。楽しみにしていた分落胆も大きくて、涙が出そうになった。
「……まったくお前は」
不意に背後で何かが動く気配がすると、ふわりとあたしを包む腕があった。勢い良く抱き寄せられて、もたれかかる。今まで後ろから聞こえてきた声が耳元で聞こえた。それはとても優しく、甘く。
「もう少しだからおとなしくしていろ。そしたらご褒美をやるのだよ」
わかったか?と囁かれて小さく頷けば、片手でそっと頭を撫でられる。それが心地よくて、思わず眼を閉じた。
どれくらいそうしていたのだろう。真太郎は撫でていた手を止めて、あたしが本棚から出してきた本へと手を伸ばした。
「今度は一緒に読むのだよ」
それは空の写真集だった。いろいろな表情の空の写真に、小さく解説が加えられている。
「綺麗だろう?」
「うん……すごく綺麗……‼︎」
飽きずに見とれていると、真太郎は何枚かページをめくった。
「オレが一番好きな写真なのだよ」
そこには今まで続いていた青い色から一変して、燃えるような赤があった。一面に広がる夕焼けの、地平線の彼方にある一本の木。懐かしいような、切ないような気分にさせる雄大な光景に思わず眼を見張る。耳元でまた、優しい声が聞こえてきた。
「この写真は北海道で撮影されたものだそうだ」
「へぇー、実際に見てみたいなぁ」
「ならば見に行こう。いつか、2人で」
「じゃあ約束ね?」
「ああ、約束だ」
指切りの代わりにそっと唇を重ねる。こんなデートもたまには悪くないかも。